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Book review

「エヴィングの瞳」を読んで。Kindle自費出版の名作。見よ!これが個人の力じゃああ!

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こんにちは。文章を書くのが好きな一般人、うつがや(@utugaya)です。

皆さん、「自費出版」はご存じでしょうか。

本来出版社から出版するにはまず始めに”作品を編集者に見つけて貰う”という課程が入ります。

漫画などは”持ち込み”といった自ら編集者に作品を見て貰う形式を取ることが一般的なのですが、小説ではこの方式が通用しないんです。

それはなぜか。

小説は読む労力がかかるからなんですね。

漫画のような読むのに底まで時間がかからない形式の作品は良いのですが、小説などの文章作品は出版形式にするために文字量が11万字から多い作品になっては20万字を優に超えてきます。

そんな文章量を速攻で読み判断するのは難しく、小説家志望では「出版社の開催するコンテスト」に応募し編集者に自分の作品を見て貰うのが一般的です。

ですが近年小説家志望が増えているのもあってどうしても「抜け落ち」が発生してしまいます。

読者から見れば名作なのに編集者からは漏れて評価すら得られない。

そんな作品を自費で出版する事を「自費出版」と言います。

この自費出版作品、侮ることなかれ。中には”名作”と呼べるものが沢山あるんです。

例に挙げるなら「余命10年」。この作品は当初コンクールの端にも掛からず”自費出版”の形式を取ったと言われています。

ところが世に出してみると読者の心を掴み大売れ。結果的に映画化まで果たし、興行収入は○億円を超える結果となりました。

今回はそんな”名作の埋もれるアンダーグラウンド”な自費出版界隈から一作、双頭アト「エヴィングの瞳」を紹介します。

この作品、確かに一般受けはしません。だからこそ出版社には拾われない作品であると何得するのですが、設定やストーリーがもの凄いんです。

アンダーグラウンドだからこそ出来るサド・マゾ表現。

それらをラノベの型にはめた名作を「作品のアングラ感」「自費出版ならではのテーマ性」「隠れた名作を救うのは読者しかいない話」の3つから詳しく解説していきたいと思います!

おすすめポイント
  • 商業ラノベにはない”アングラ感”が胸を穿つ
  • サドとマゾ。こんなにも生々しいのにどこかラノベ的で面白い
  • こう言う作品が目立てない世の中だからこそ、読者が支えなきゃいけないんだ

エヴィングの瞳について

あらすじ

「私には見える、アナタの変態性欲が」
特殊な性的指向を持った少年と、それを透視する少女が出会う。最初は仲良くやっていたが、少しずつ奇妙な事が起こり始めて――。
キミの性癖を見透かす異能、邪道派学園ラブコメ!

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書籍情報

著者双頭アト(@soutou02)
定価99円(税込み)
ページ数203ページ
発売日2018年8月25日

おすすめポイント

この段落では僕が読んで「これは是非おすすめしたい!」と思った点について詳しく紹介していきます。

商業ラノベにはない”アングラ感”が胸を穿つ

商業と自費出版の大きな違いは「読む人を限定する」と言うところにあると思います。

一般的に出版されているラノベは「より多くの人に共感しやすい」設定になっており、それが最低条件になっています。

当たり前ですが出版社も商売です。だからこそ「沢山売れる作品」が世の中に出るようになっているんですね。

ですが本作「エヴィングの瞳」は自費出版らしく一般ウケはあまりせず、代わりにどストレートにハマれば永遠にダメージを受け続けるようなそんなアングラ感を孕んだ作品になっています。

文体こそラノベらしく会話文中心に物語が進んでいき、キャラクターもキャッチーでどこか愛着を持てる。

ですがその中には読者の心を変な感じで揺さぶる言わば毒のようなものが含まれており、この毒に一度苛まれてしまうともうそこからは抜け出せません。

そんなアングラ感こそ本作の最大的な魅力であり僕が何度も手に取ってしまう大きな理由になっていると考えます。

サドとマゾ。こんなにも生々しいのにどこかラノベ的で面白い

本作のテーマでもある「サドヒズムとマゾヒズム」。

おいおいおい、ラノベにこのテーマかよ!と驚愕する方も多いと思いますが、それこそ双頭アト先生の大きな魅力でもあります。

双頭さんは数年前よりYouTubeにてアングラなゲームや事象について解説するチャンネルを運営されており、そんな膨大な知識量から解き放たれるサドヒズムやマゾヒズムはラノベと相性抜群であることをよく思い知らされることとなります。

また、キャラクター的なラノベにも関わらず“性癖”という生々しいことをテーマにしているところもとても面白いです。

昨今ラノベでは「キャラクターの性事情をテーマにする」が主流になってきており、ラノベジャンルに目を通していると生々しい作品が増えてきています。

「キャラクターの性事情」をテーマにしたラノベ

そんな流行に一足先に手を出していたと言う事実も実に自費出版らしくて面白く、そして何より「完璧配分されたキャラクターと生々しさの比重」がこの作品をより魅力的にしている部分だと考えます。

誰の心にもすっぽりと入りそうなキャッチーさに相まった特殊性癖の生々しさ。

このバランスがあまりにも自分の心を侵略していきます。

魅力的なキャラクターがどんどん狂っていく様。往年のギャルゲーを彷彿とさせるような設定に思わず息を呑むこと間違いなしです。

こう言う作品が目立てない世の中だからこそ、読者が支えなきゃいけないんだ

そして、読み終わりに感じる特殊な満足感こそ今の日本の出版業界に対し読者が守っていかなくてはならないことなんだと思います。

年間出版数が右肩上がりに増えていっているこの日本において、「誰かの心に刺さる作品」はどんどん部数を減らしていく傾向にあると思います。

何故なら、お金にならないから。

ですが、そんな作品こそ読者が読んだり買ったりすることで守っていかなくてはならないのだと非常に痛感させられます。

なくてもいい。なくてもいいけれど、ないとダメな人がいる。

この作品で救われる人々が、この世界の何処かにはいる。

その事実が明日の良い作品を生み出す活力となり、読者としてもそう言う作品に出会える機会が増えるきっかけとなると僕は考えます。

文学フリマやコミックマーケットなどアングラな作品に出会える機会が増えたからこそそういった作品に軽率に触れられるような世界になればいいなと思いました。

もし本書が気に入ったら

他の”自費出版”作品

  • 小坂流加「余命10年」

第6回静岡書店大賞 映像化したい文庫部門 大賞受賞作
20歳の茉莉は、数万人に一人という不治の病にかかり、余命が10年であることを知る。笑顔でいなければ周りが追いつめられる。何かをはじめても志半ばで諦めなくてはならない。未来に対する諦めから死への恐怖は薄れ、淡々とした日々を過ごしていく。そして、何となくはじめた趣味に情熱を注ぎ、恋はしないと心に決める茉莉だったが……。涙よりせつないラブストーリー。

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2022年に小松菜奈主演で映画が公開されるとその淡く切ないラブストーリーが人々の心に刺さり、あっという間にベストセラーとなった作品「余命10年」も元々は自費出版でした。

小坂さんが出版社に自費出版として企画を持ち込み、そこから書籍化へと辿った本作は余命10年を宣告された主人公が恋をする物語なのですが、初めは編集者に「重いお涙頂戴(ちょうだい)モノにはしない」と提言されたと言います。

自作の小説が商業に上がる段階でネックになるのが「売れる作品にしなければならない」と言う当たり前と言えば当たり前のことです。

ですがそれは時に作者の意を変えてしまうことであり、実は”一般化する”というのは作品を良くも悪くもある二面性があります。

そんな中で”重くお涙頂戴モノが世間にヒットした”という皮肉ともとれる結果を残したこの作品に僕は敬意を評したいです。

小坂さんは本著の発売後すぐに天に昇ってしまいましたが、作家志望の端くれとして、素敵な作品を残してくれた先生に感謝すると共に本作品にも目を通して下さると嬉しいです。

  • 蟹「あの頃の青い星」

平凡な女子高生・構本海は、ある日隣のクラスの美人・瀬川晶に一目惚れしてしまう。自分の気持ちに戸惑いつつも、どこかミステリアスな雰囲気を持つ瀬川と仲良くなりたいと願う海だったが…

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こちらの作品は一辺、小説とは異なり「インディーズ漫画」と言う立ち位置になります。

実は小説だけでなく漫画にも自費出版は多く、そういった作品がKindleには転がっているのですが、中でもこの「あの頃の青い星」は一際光るものがあります。

「人魚を探している」という不思議な少女瀬川晶と、主人公構本海のエモーショナルな百合的恋愛は心いっぱいに繊細な漣を立ててくれる事でしょう。

桜庭一樹先生の「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」に似た世界観が好きな方、心に刺さるような百合漫画を読みたい方にとてもおすすめです!

まとめ

と言うことでいかがだったでしょうか。

今回の記事は完全に僕の私利私欲のために書いています。

「エヴィングの瞳」に出会ってからというもの「こういった作品を増やしたい」と身に染みて感じたし、「こういった作品に出会える機会を増やしたい」と考えるきっかけになったからです。

書き手が増えて作品がどんどん生み出される世界になったからこそ、読み手としてアングラ文化を次世代に繋ぐため守っていかなければなりません。

そんなきっかけに「エヴィングの瞳」は如何でしょうか?

気に入って頂けたら是非手に取って頂けると嬉しいです。
最後まで読んで下さりありがとうございました!

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