こんにちは。文章を書くのが好きな一般人、うつがや(@utugaya)です。
皆さんは最近都内近郊で”少し毛色の違う”ホラー系の展示会が多く開かれていることをご存じでしょうか?
2025年夏時点だと「近畿地方のある場所について」でおなじみの背筋さんが監修している「1999展〜存在しないあの日の記憶〜」や、少し前になると「行方不明展」がSNSで話題だったのも記憶に新しいと思います。
これらの展示会の共通点として、「モキュメンタリーが元になっている」というものがあります。
この「モキュメンタリー」という言葉、「mock(まがいもの)」と「documentary」の二単語を掛け合わせた造語で、いわゆる「作り物のFAKEドキュメンタリー」を指すのですがこれがまぁ面白い。
創作である事実の中に考察がいのある謎やテーマが含まれていて、他の人の考察を調べたり自分で見返してみて新たな謎を紐解いたりなどいわゆる「推理ゲーム」に近い映像作品なんです。
今回はそんな「モキュメンタリー」を元にしたホラー系展示会の中で「行方不明展」のクリエイターが再集結して開かれた「恐怖心展」に行ってきましたので感想&考察レポをお送りしたいと思います。
「イシナガキクエを探しています」や「飯沼一家に謝罪します」など度々SNSを盛り上げてくれるモキュメンタリー制作チーム「TXQ FICTION」が中心となって制作された今回の「恐怖心展」。
今回も実際に地上波で放映されたモキュメンタリー番組「魔法少女山田」を中心にとても考察がいのある展示になっていたので是非現地にいるような気分でお読み頂けると幸いです。
それではいってみましょー!
- 会場に足を踏み入れる前からマジで結構怖い
- 作り込まれた展示物は視覚だけでなく聴覚・触覚も刺激してくる
- 正直一回だけでは全てを味わうのに難しい展示内容に人の多さ
「恐怖心展」概要
あるもの・ことに対して、
恐怖心展公式サイトより
その人が生理的に感じる恐れや不安。
単なる命の危険や苦痛を
伴うものだけでなく、
一見して恐怖の対象とは思えないもの
にも生じることがあります。
これらの恐怖は、時に説明のつかない
不合理さを伴います。
恐怖心展では、
「先端」「閉所」「視線」といった、
様々なものに対して抱く「恐怖心」を
テーマに、展示を行います。
そこで展示される様々なものを通して、あなたの恐怖心に向き合うきっかけに
なれば幸いです。
開催日 | 2025年7月18日(金)〜9月15日(月祝) |
開催時間 | 11時〜20時 ※最終入場は閉館30分前 |
会場 | 渋谷BEAM4階 / BEAMギャラリー 東京都渋谷区宇田川町31-2 ※「渋谷」駅 徒歩5分 |
入場料 | 2,300円(税込) |
公式ホームページ | https://kyoufushin.com/ |
今回の「恐怖心展」は前述したとおりテレビ東京系列「TXQ FICTION」が中心となって企画・制作された展示会になります。
何といっても「TXQ FICTION」が関わっている企画の特徴はメンバーの豪華さ。
「イシナガキクエを探しています」や「祓除」などSNSをいつもながら考察の渦に巻き込んでくれるプロデューサーの大森時生をはじめ、ホラー作家の梨や、ディレクターにはオモコロでライターを務めるダ・ヴィンチ・恐山など。
今回はそんな豪華メンバーに「株式会社闇」の頓花聖太郎やマジモンの精神科医である池内龍太郎が加わり、他の展示とは一線を画したホラー体験に仕上がっています。
そんな豪華メンバーによって制作されている今回の展示ですが、一言だけ言わせてください。
こんなに安くて良いんですか……?
会場も渋谷の中心地にあり会場費ですら馬鹿にならないほどのお金が掛かっていそうなのに、それが大人2300円で体験できるだなんて……。
クソほど暑いこの日本社会においてこのクオリティで背筋がゾクッとしてしまう高品質なホラー体験が2300円とは、それすら何かの考察になるんじゃないかと訝しんでしまう程の安価です。
また、この展示には当然元となっているモキュメンタリー「魔法少女山田」があるんですが、そちらはYoutubeに公開されているため無料で視聴することが出来ます。
本当になんで……?
この展示に興味ある方はとりあえず「魔法少女山田」を見てから、是非会場に足を運んでみてください。
いや2300円は流石に駄目だろ。
感想

と言うわけでここからは実際に足を運んだ私うつがやが今回の展示について感想を述べていきたいと思います。
ざっくりと知りたい方の為にはじめに述べるのですが、今回の展示、結構難しいです。
会場に足を踏み入れる前からマジで結構怖い

まず語っておきたいのが会場の受付前となる待機所での話です。
今回の会場は渋谷BEAMというビルの4階にあるのですが案内されて早々、結構な恐怖を煽るような空間がお出迎えします。
「恐怖心展」のポスターにもある顔の隠れた人物の写真が一列に並んだ薄暗い廊下に、点滅する蛍光灯。
ホーンテッドマンションのライド待機列にあるようなジワジワと弱くなるタイプの照明ではなく、結構はっきりとチカチカ輝いていてめちゃくちゃ怖かったです。
そして何より、外の気温度外視かって言うくらいキンキンに冷やされた会場内の空調が「これからホラーの世界に足を踏み入れるんだ」という気持ちをざわざわと波立てていくようで、本当に怖い。
なんなら緊張も相まって一番背筋がピンと張った瞬間でした。
いやー、会場に元からある蛍光灯を無視して吊り下げられた点滅する蛍光灯、本当に力の入り方が違うなと痛感する場面でした。
作り込まれた展示物は視覚だけでなく聴覚・触覚も刺激してくる
会場内は「存在に対する恐怖心」「社会に対する恐怖心」「空間に対する恐怖心」「概念に対する恐怖心」の四つに区分されておりそれぞれの恐怖心が味わえるのですが、とにかく”心の奥底にあるモチーフを現実で表現する”という手法が中々に恐怖を誘います。
例えば、「存在に対する恐怖心」のゾーンにある「人形に対する恐怖心」の展示。

一台のテレビの前にずらっと並べられた首から上だけがない日本人形の集団は恐怖心を抜きにしても怖さを煽ってくるインパクトがあります。
また、会場内には至る所にヘッドホンが置かれている展示があり、それらは「笑い声の恐怖心」「赤ちゃんの恐怖心」等”音”にまつわる恐怖を実際に体験できるよう設置されていたりします。
特に私が体験して怖かったのは「病院の恐怖心」です。

この展示ではガラスの容器に入っている脱脂綿や使い終わったであろうゴム手袋が置かれていたのですが、鼻を近づけてみると……。
歯医者や総合病院のようなあのツンとする清潔感の漂う香りが近づいてきて、最近歯が痛い私からしたら一番恐怖を煽られた展示でした。
会場内で鳴り響く電話の音に、所狭しと流れ続ける誰かの恐怖を目覚めさせてしまった映像の数々。
五感全てを刺激して「怖い」という感情を最大限増幅させてくる展示物の数々に、正直鳥肌が止まらなかったです。
正直一回だけでは全てを味わうのに難しい展示内容に人の多さ
ここまでは会場や展示物についての感想を述べてきたのですが、ここからは本展示会の特徴を踏まえつつ総合的にレビューしていきます。
まず第一に、人が多くて展示を味わう時間がそこまでとれないこと。
完全予約制であり日時指定の予約が必要な会期中に訪れたのですが、それでも人が多く完全に満足しきるまで展示物を味わえなかった消化不良感が残りました。
一つの展示物は小さく、その上説明文やタイトルすらも小さい始末。
一応アナウンスがありスマホを通して説明文などは特設サイトにて読めるよう配慮されているのですが、そもそも「それが何の展示なのか」が分からなく上手く機能していなかったようにも思います。
また、文章を読む系の展示が多かったのも正直辛いなーと感じてしまいました。

モキュメンタリーを根幹に置いている以上”考察”という要素は本展示の中核を担っている存在であることは分かるのですが、如何せん読む速度がバラバラすぎて前の人が読み終わるまで結構待つ印象です。
展示会という性質上ゆっくり見たい人とサクサク行きたい人が混在し、一つの展示を味わうのにも千差万別の時間を要します。
そんな中で大勢が入り混じる会場内は通行の妨げや「他の人を待つ」というタイミングが多くあり考察どころではなかったなーと言うのが感想です。
また、一度だけでは全てを読み取れない性質上この人の多さが徒となって、結局何を伝えたいのかが分からなくなってしまっているようにも感じます。
「恐怖心」という物を単に味わいに来たのか、それともバックボーンにあるストーリーの考察をしに来たのかでは大きく評価の変わる展示会だなと思いました。
兎にも角にもこのような上質なホラー系展示会が2300円で体験できるのは前述したとおり正直お得としか言い様がないですし、それに試みについても大いに楽しませていただきました。
さて、あなたはどう感じるのでしょうか。
……ここまでが織り込み済みで設計された展示会であったなら、と考えると足が震えますね。
考察

ここからは私うつがやが感じた「恐怖心展」に関するざっくりとした考察を書き殴っておきたいと思います。
今回のテーマはズバリ「消費」であると考察する
「恐怖心展」では様々な”恐怖心”にまつわる物品や映像が所狭しと展示されており、それらを通じて私たちも恐怖心とは何かを考える展示形式が取られています。
「電話に対する恐怖心」や「幸せに対する恐怖心」など。
それらの背景には必ず、恐怖心に怯え苦しんでいる人々が存在しなんならその恐怖によって転職を余儀なくされた人、転居を余儀なくされた人、元の人生にはもう戻れない人が存在するわけです。
そんな人々の人生の狂いを私たちは”恐怖心”と銘打って楽しんで鑑賞している。
これを「恐怖心の消費」と例えることができる、と私は考えます。
展示会というエンタメによってそう言った人々の苦しみやゆがみを消費することは、果たして良いことなのでしょうか。
元となったモキュメンタリー番組「魔法少女山田」にも山田さんを消費しコンテンツを作ろうとする監督「三田愛子」が登場するんですよね。
苦しんだ姿をエンタメとして消費しようとするこの社会において一体何が正解なのか、深く考えさせられる展示会だと私は感じました。
恐怖心とは向き合ったときに発生する物である
展示物の中には多くの”恐怖心が発生した瞬間”を捉えたものがあり、特に「海に対する恐怖心」「閉所に対する恐怖心」の展示ではその内容がより鮮明に映像として残されています。
それらの映像は時に海底にいるとき、時に自分が閉所に閉じ込められているときに恐怖心を芽生えさせてしまっているのですが……。
そんな恐怖心を一カ所に集め大勢の人に感じて貰う展示会。
さらには公式サイトに載せられた、説明文の一説。
「そこで展示される様々なものを通して、あなたの恐怖心に向き合うきっかけになれば幸いです。」
向き合ったときに発生するのが恐怖心なら、向き合っては我々観覧者の多くにも恐怖心が芽生えてしまうのでは?
魔法少女山田では主人公である「貝塚陽太」に唄うと死ぬ歌の真相を知った同級生「日下部萌花」が伝えまいと口をつぐむ場面があります。
本来なら恐怖心が発生した瞬間や発生するであろう物なんかは、他人に見せない方が良いのかもしれません。
まとめ
ということでいかがだったでしょうか。
この記事は恐怖心展に行ってきた夜の23時から書き始めて今に至るのですが、思い出せば思い出すほどに考察のしがいがある要素の塊でしかなかったなと改めて感じます。
人が皆当たり前に持ち合わせている「恐怖心」だからこそ、そこには孤独や苦しみがきっとある。
その苦しみをどうやって処理するのか、人に伝えるのか、それとも飲み込んで我慢するのか。
あなたの”怖い”にはきっと理由があり、生まれた瞬間があり、そして今も持ち続けている理由がある。
そんな本質的な部分を強く訴えかけてくるようなゾクゾクする展示会でした。
人気も相まって9月15日まで会期が延長された「恐怖心展」、まだ体験していない方は是非体験してみて、改めて人間の持つ「恐怖」の底知れぬ強さを味わってみてください。
最後まで読んで下さりありがとうございました!