こんにちは、文章を書くのが好きな一般人、うつがや(@utugaya)です。
皆さんは最近百合漫画接種されました?
まるでこの時間が永遠とも思えるかのような、2人だけの世界で展開される百合漫画から、明るくキャピキャピした日常に溶け込む百合漫画まで。
テーマが「女性同士の恋愛」だからこそ描ける世界がたくさん詰まった百合漫画にたまには癒してもらいたくなりますよね。
そんな百合漫画好きの方から、「癒してくれる漫画を探してるよー」という方まで!!
今回は「何故もっと話題にならない?」と不思議でしょうがない屈指の名作百合漫画「上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花」をご紹介したいと思います!
タイトルだけを見てブラウザバックしようとしたそこのあなた、ちょっっっとだけでいいので話を聞いてください!
この漫画、タイトルから入ると「ちょっとなあ……」「歴史物?」と先入観をお持ちになるかもしれませんが断じてそんなことはありません!!
この一冊に詰まっているのは、”お酒にまつわるコンプレックスを抱えた2人の大学生が織りなす嫉妬ありの純愛百合漫画”なんです!
酔い酔われ、不器用ながらに相手の気持ちへと寄り添っていく登場人物たち。
純文学のような世界観に落とし込まれた至高の百合を今回は「上伊那ぼたんならではの登場人物の関係性」「おれしゃれの中に潜むレトロな世界観」「苦しくも愛おしい心情描写」の三つに分けてご紹介いたしますのでぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。
それでは、いってみましょー!
- ウイスキーのような複雑でどこか甘い登場人物の関係性が最高すぎる……
- まるで日本酒のラベルみたいなおしゃれでレトロチックな世界観が良すぎて……
- ビールを飲み干した後のような苦くどこか爽やかな心情描写に目が離せない……
あらすじ
二十歳の大学生・上伊那ぼたんは酔うと少し大胆になってドキッとする一言を…? これが令和の”読むアルコール”。 上伊那ぼたんに酔いしれましょ。
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書籍情報
著者 | 塀(@tonarinohey) |
定価 | 600円+税 |
ページ数 | 160ページ |
初版年月日 | 2020年1月20日 |
ISBN | 978-4-253-14236-6 |
おすすめポイント

ウイスキーのような複雑でどこか甘い登場人物の関係性が最高すぎる……
本作でまず初めに語りたいのが、「登場人物の関係性について」です。
本作の主人公「上伊那ぼたん」は長野県から大学進学のため上京してきた女の子なのですが、まだまだ無垢でお酒など少し飲んだ程度。
そんな上伊那ぼたんが出会うのは、「お酒を飲むことにコンプレックスを抱いている」と言う2人の住む寮の寮長「いぶき」でした。
読み始めて最初、絶対に通ることになる秩父路の特産市で1人酒を煽るいぶきと、ぼたんの出会い。
1人居なくなったいぶきを探しに出たぼたんは、しゃっくりをしながらハイボールを飲むいぶきを発見します。
私はずっとひとり飲み。
上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花ー1巻より引用
けれど「彼女となら…」とうかつに思ってしまったのはきっと――
上伊那ぼたんが実にうまそうにお酒を飲むせいだ
そこから物語は「お酒を飲む際のコンプレックス」を軸に進んでいくのですが、それと並行して2人の関係性も揺れ動いていきます。
「お酒」に関していぶきと距離を詰めたい寮生や、飲むお酒との関係性。
そして何よりも、まだまだ未熟だからこその「心情を直接伝えられない」というもどかしさ。
ウイスキーのように甘い百合に潜む「コンプレックス」という苦味は他の作品が追随できない苦しさを味わうことができます。
過去のトラウマや、先輩後輩の関係性。
好きとはなにか、共にいるとはなにか、そして「大学生」という設定が生かされた将来について考えることへの孤独感。
こんなにも複雑な設定が絡み合うのにどうしてか2人の関係にフォーカスすると甘くて、読んでいるだけなのに脳が焼き切れる音がします。
日常に潜む葛藤や苦しみが落とし込まれた百合漫画の本作、あまりに唯一無二すぎてすぐに取り憑かれること間違いなしです!!!
まるで日本酒のラベルみたいなおしゃれでレトロチックな世界観が良すぎて……
そんなウイスキーみたいな複雑さを待つ本作、唯一無二なのは関係性だけではなく世界観もあまりに凄すぎます。
塀先生の描く世界には大きく二つの要素があり、一つは細かな描き込みで魅せる没入感、もう一つは文学作品や往年の映画作品の引用で様々な深みがあることです。
まずは細かな描き込みで魅せる没入感から。
本作の舞台は埼玉県秩父市、山や自然の残る都内からも近い田舎町になります。
この自然と青春の絡み合う世界を塀先生は緻密な取材のもと漫画に書き込んでいるんですよね。
例で言えば2巻目に登場する「いぶき、二年生の北杜先輩と長瀞に小旅行に出かける話」の一場面。
ローカル線を乗り継いで向かう川辺に、奥に広がる無垢な自然の背景描写。
澄んだ水辺に腰掛けて秩父麦酒に口をつけ、そのまま進行していく人間関係の変化なんて文言を見ただけでも心がざわめき立ちます。
塀先生しか描けない絵柄はどこかレトロチックでエモく、それでいてリアリティを感じる。
話のテンポ感と場面転換の繋ぎが素晴らしく、すっと喉に入ってくる苦味はまるで日本酒の喉越しの様です。
また、もう一つにあげた「文学作品や往年の映画作品の引用」に関しては登場人物の多くが古い創作作品に触れる機会を持っており、セリフや行動での引用で触れられています。
具体的に言えば「100年の孤独」。
ガブリエル・ガルシア=マルケスの名著として有名な小説を軸に進行していく話があるのですが、その際に登場するお酒もまた同名の「百年の孤独」という焼酎だったりします。
知見の広さが苦しみをより引き立て、それがお酒の味とシンクロしていく展開に引き込まれること間違いありません。
詩だったり、映画だったり、文学だったり。
清く澄んだ水を用いて作られる日本酒にも、そんな作品の言葉を用いた日本酒が沢山あるんです。
緻密な描き込みが魅せる世界観の中に響く名作の引用や深みのある味わい。
回を追うごとに様々な雰囲気が読み手を襲い、その度に感情を引っ掻き回される本作はまさに一読の価値がある新世代の名作です
ビールを飲み干した後のような苦くどこか爽やかな心情描写に目が離せない……
さて、最後はそんな登場人物達が織りなす心情描写について。
ここまで読んでいただけた方にはもう上伊那ぼたんの魅力を存分にお伝えしていると思いますが、本作の要とも言っていいのがこの「心情描写の深み」です。
初めは先輩後輩の繋がりでしかなかったいぶきとぼたん。
どちらも独立するほどに魅力的なキャラクターで、単体だけでももちろん引き込まれること間違いなしです。
ですが面白いことに本作、「2人でいた方が何倍も面白い」という性質を持っています。
対面でお酒を飲み、笑い合い、ほんの少しだけ手が触れる瞬間。
お酒という広い世界に飛び出し様々な種類のお酒に触れることで物語は進行し、いつしか僕たち読者も「2人だけの世界」を求める様になるんです。
特に語りたいのがいぶき、ぼたんの2人でグランピングにいく回。
あまり言及するとネタバレになりかねないのでお茶を濁すのですが、「それまで読んでいたのが全て過程に過ぎない」と告げられる様な衝撃を感じる回です。
ひしひしと繋がり離れる心を表情や行動で示しており、「まだ本作の魅力を捉えきれていなかったのか」と正直後悔しました。
登場人物の心情を考えることって、漫画をもっと深くまで読み一コマ一コマを理解することなんだと再認識させられます。
そんなシーンがありふれており、どの登場人物にフォーカスするかで味わいが二転三転するのはまさにビールを飲み干した後の様。
喉越しなのか、苦味なのか、炭酸感なのか、甘味なのか。
涼しげでどこか儚くて、それでいて宙に浮く様な幸せを感じることができる作品。
本作「上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花」にはそんなお酒独特の風情が沢山詰まっており、まさに唯一無二の作品と言えるでしょう。
お酒を飲める方も、飲めない方も。
みんなが平等に接種できる百合漫画で是非新たな体験をしてみてください。
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まとめ
ということでいかがだったでしょうか?
今回は「何故もっと話題にならない?」と不思議でしょうがない屈指の名作百合漫画「上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花」をご紹介しました。
大分メジャーになった百合漫画界隈ですがまだまだ埋もれている名作も多く、心を揺さぶられる作品から思わず共感してしまう作品まで様々な「尊い」が所狭しと点在しています。
テーマが海だったり、高校だったり、カフェだったり、社会人だったり。
どんなジャンルにも一概に言えることですが、必要なのは「まず初めに手に取ってみるだけの勇気」です。
その一歩さえ踏み越えることが出来るなら、最上級の尊さがあなたを待っていますよ。
気に入って頂けたら是非手に取って頂けると嬉しいです。
最後まで読んで下さりありがとうございました!