こんにちは。文章を書くのが好きな一般人、うつがや(@utugaya)だ。
さて、僕とちょっとだけノリが底辺YouTuberな友人は2021年の冬、青春18きっぷを使って東北、さらには北海道まで旅に行ってきた。
JR在来線だけを使って行く総移動距離357.6kmの夢と希望と、腰の痛さに満ちた大旅行である。
旅行スタートの朝、僕はこの大旅行の前準備として友人との集合場所である東飯能駅の自販機で数本、お茶を購入した。
12月の埼玉とて、秩父山脈の山の中はゲチ寒である。凍える両手にお茶を握りしめて、旅の始まりの一本目の電車に乗車したのだった。
そこでふと、ちょっとだけノリが底辺YouTuberな友人がこんなことを言い出した。
「やっぱり、寒い地方に行けば行くほど自販機の『あったか~い』率は上がるんじゃね!?」
時刻は8時早朝。寒さと前日興奮して寝れなかったことが相まって、この時間に聞く線の細い変なテロップで表示されてそうなセリフは正直勘弁してほしかった。
けれど底辺YouTuberっぽい満面の笑みを浮かべる友人を見て朦朧とした意識の中、僕たちは何故かこのことについて激しく討論しはじめた。
僕「変わらないだろ」
友人「いや、絶対に増えていく。『あったか~い』様の崇高さは、誰だって感じたことがあるはずだ」
僕「でも考えてみろ、寒くなればなるほど暖房が聞いている場所が必然的に多くなっていく。てことはそんなに『あったか~い』飲み物を求める人は増えないんじゃないか?」
友人「いや、『あったか~い』様は、崇高なんだ。庶民が簡単に理解できる物じゃない」
僕「お前のさっきから言っている『あったか~い』様って何なんだよ」
と、こんな風によく分からない討論が飛び出し、段々と眠気が吹っ飛んで行った。
そして、僕たちはある一つの結論に行き着いたのである。
「じゃあ自販機を写真に収めて、比べてみれば良いじゃないか」と。
なんでこんなことをやらなければいけないのか。
それを考えるには埼玉の山陰は険しくて、寒くて、手がかじかんでついあったか〜いお茶を買ってしまった僕にも非があるのかもしれない。
そんなこんなで旅すがら津々浦々で取った自販機の写真と共に、各自販機のあったか〜い率を本数で計測し、特徴について赤裸々に記録していくことにした。
また今回は、本気で東北地方の「あったか~い」率の高さを計測するため、とある表を用意した。

太陽と雪の結晶の主張がうるさい表だが、確認した「あったか~い」の本数はしっかりとExcelに記入し、割合を出していく。
本記事は、そんな旅路の間柄、「あったか〜い」を求めた男達の涙と汗と、たまに「何にもしないで金を稼いでいる奴」への嫉妬に塗れた実体験レポである。
最後までお付き合いいただければ幸いだ。
1stあったか〜い:山形

「何故一番最初に出てくる自販機の写真が山形の自販機なんだ? さっき東飯能で思いついたって言ってたじゃないか! 早く埼玉の山ん中にある自販機の写真を出せ!!」
とお思いの読者もいるだろう。まぁ、端的に言えば、写真を撮るのを忘れていたから山形からなのだが、落ち着いて聞いてほしい。
僕は、確かに宇都宮と東飯能で写真を撮った記憶がある。その写真が見つからない深夜0時半。一番焦っているのは僕である。
一応友人に写真はないか聞いてみたところ、そもそも撮っていないらしい。
流石ノリがちょっとだけ底辺YouTuberなところはあるなと悪態をつきながら、早速自販機の写真を見ていこう。
山形の自販機で特筆すべきは、「あったか~い」が二段目にまで食い込んできていることだ。
これはやはり東北地方ならではと言える。
ちょっとだけ調べてみたところ、冬の山形県は平均最低気温が−10度を下回ってくるらしい。
普段僕達が良く見る「あったか~い」の比率は黄金比の2:1であるのに対し、その比率を優に超えてくるあったか〜い率だ。
これはまるで、鉄壁の砦を崩し、攻め込む武将の様ではないか。「あったか~い」恐るべし。
友人「な、言ったろ? やっぱりあったか~い様は増えるんだ」
紅茶花伝のレモンティーを買いながらドヤ顔してくる友人も一応写真に収め、僕は一応「サムネ.jpeg」と名前を付けてファイルに保存しておいた。
しかもお前が買っているのは冷たい飲み物だが???
と言うことで、とりあえずの基準は山形の自販機だ。
この写真を基準に、次なる自販機へと向かうとする。

2ndあったか〜い:福島

次なる自販機は、納豆の年間購入金額全国一位で有名な福島県。
この自販機は打って変わって、先程の米沢を凌駕する「ほぼ3分の2あったか~い」だ。
二段目はほぼ「あったか~い」に占領されたと言っても良いだろう。これでは、残る三人の兵士が可哀想なくらい、「あったか~い」である。
この自販機の特筆すべき点はズバリ、「あったか〜い」の侵略からなんとか耐えきっている残された三人の兵士にあると断言する。
左から「リポビタンD」、「青森りんご」、「ミネラルウォーター」となっている。

この中心にいる青森りんごはJRの駅でしか購入できない青森のリンゴをふんだんに使った贅沢なリンゴジュースなのだが、なかなかの強敵だ。
普通の自販機ではリンゴジュースは「なっちゃん」を筆頭に大体100円~120円前後を行ったり来たりしている。でもこいつは、それをはるかに凌駕する180円という価格で鎮座してる。もはやほぼエナジードリンクとタメなのだ。
青森りんごを中心に残す御三家が残っているなら、福島の二段目は、中々「あったか~い」の手には渡りにくいと予測される。
これは「あったか~い」様のお手並み拝見と言ったところか。
友人「やっぱり、あったか~い様の進行は続いていたんですねぇ!!」
何を言っているんだ。というか、なんだその顔は。
まるで商品紹介系YouTuberのサムネイルみたいな顔をして、一体僕に何を伝えたいんだ。
と言うことで、福島で現れた強敵「青森りんご」はいかにして倒れるのか目が離せない。
今後は青森りんごの動向も注目しながら、次の自販機へ向かうとする。

3rdあったか〜い:秋田

僕たちは秋田県の自販機を初手見たとき、敗北を確信した。
本企画は、「寒い地方に行けば行くほど『あったか~い』率が上がるだろう」という安直な確信の元行っているものである。それがあろうことか、秋田県で打ち砕かれてしまった。
僕「おい、どうしちまったんだよ『あったか~い』。お前は、こんなところで死ぬ玉だったのか?」
友人「『あったか~い』様はきっと、『つめた〜い』の冷気に一時的に当てられただけなのだ。きっと、我々の『あったか~い』様は生き返る。ここで、祈りを捧げよう。鎮魂と、鋭気を」
僕「だからお前は誰なんだよ」
空虚な突っ込みが、秋田駅のホームにこだまする。僕たちは落胆のまま、青森行きの電車に乗車したのであった。
ただ、唯一勝ち筋を見いだしたところもあった。
秋田駅のコンビニで販売されていた青森りんごの価格は、相場よりも20円ほど安くなっていたのである。

エナジードリンクとタメを張る程高かったあの青森りんごがここに来て力を弱めたのは、もしかすると力を蓄えるためなのかも知れない。
友人「あったか〜い様はきっと、東北全土を主戦場として戦っているに違いない。な? お前もそう思うだろ?」
……そんなチャンネル登録と高評価を促してくるような笑顔で同意を求められても、僕には答えられる気力が残っていなかった。
僕はこれを見た瞬間、秋田はよほどの魔境なんだなと確信した。一刻も早く抜け出さねば。僕達はキャリーケースにいぶりがっこを挿すと、速やかに電車へと乗車した。

4thあったか〜い:青森

僕たちは、現実を知った。
あんなにも福島では激闘だった「あったか~い」は、いつしか仙台くらいまで後退していた。
ああ、これが現実か。なんて無情なんだ。
あんなにも頑張っていた「あったか~い」はどこへ消えてしまったんだ。てか「あったか~い」の「~」ってなんだよ。なんで普通の伸ばし棒じゃねえんだよ。これ手打ちするのすげぇ疲れるんだけど。
そんな空虚な想いが、胸いっぱいに溢れて、苦しくなる。
溢れそうになる涙をこらえて、自販機に別れを告げた。
友人「祈りは、届かなかったか」
底辺YouTuberに似つかわしくない哀愁を含んだ言葉が、フリーBGMの「Moment」をバックにさんさんと降る雪の中に消えていく。

灰色の曇り空が、僕たちを押しつぶすようで、とても苦しかった。
僕はコンビニで買った青森県産カットリンゴを一口囓ると、空しく旅館へと歩いて行ったのだった。

5thあったか〜い:北海道(函館駅)

津軽海峡に思いを捨て本州を出ると、そこはどこまでも広がる大地の北海道函館市だった。
ひとしきり泣いた後見る夜景は綺麗で、心が軽くなるようだった。
僕「なぁ、これで泣きわめいたことだし、元気出そうぜ」
僕はそう言って彼の手を取る。すっかり塞ぎ込んでしまった彼は、ぶつくさと「あったか~い様」と唱え続けていた。
僕は仕方なく彼を放っておくと、一歩目を北海道へと付けたのだった。
そうしてバスに乗ること数十分、函館駅へと着いた。中に入り、一応、自販機を確認する。
…………そこに、「あったか~い」の姿はなかった。
僕「こんなのってあんまりだよ! ひどいよ! 本州の一番北だぞ? 寒いに決まってるじゃん。なんで『あったか~い』飲み物を置かないんだよ!」
僕は思わず、叫んでしまった。
外では本州とは違う、大きくてまあるい、真っ白なつめた〜い雪が空から降ってきている。
肌を突き刺すような木枯らしの前に貧弱な防寒具は意味を成していなく、止まっていれば数分のうちに凍えてしまいそうだった。
……こんなときに、自販機で手軽に買えるあったか〜い飲み物さえあれば。
隣では彼が、未だぶつくさ「あったか〜い様」と何度も唱え続けている。
僕「なぁ、なんとか言えよ! 俺たちの検証は無駄だったのか!?」
僕は思わず、彼の肩を掴んだ。
すると彼は、
友人「俺だって、信じたいんだ!」
と底辺YouTuberかバンドマンしかしていない変な色の長い前髪の中から鋭い眼光を僕に向けながら言った。
そうだ。一番傷ついているのは、こいつなんだ。
僕は改めて、彼の信仰の強さを思い知った。
僕「ごめん」
そう一言だけ呟くと僕は彼の肩から手を離し、キャリーケースに握り直した。
こうして僕たちは、食べログで評価の高かったジンギスカンの店へと入っていったのであった。

本場の羊肉に癖はなく、いつもの焼肉より美味しく感じて二人とも笑顔だったのはここだけの秘密である。
なによりも、食後に出てきた温かいトウモロコシ茶が染み渡るほどに美味しかった。

6thあったか〜い:函館山
ごうん。ロープウェイは静かに、どんどんと標高を上げていった。
外では先程まで猛吹雪だったが止み、今ではしんしんと静かな雪を降らせている。

12月22日。クリスマスを3日後に控えたその日、僕たちは収入無し恋人無し友人アリの状態で函館山山頂へと向かっていた。
友人「なぁ、もうクリスマスだな」
彼が呟く。
街のネオンは恍惚と輝き、僕たちに華やかさを訴えかけてくる。どんどんと標高が高くなっていくと、そのネオンは豆粒ほどとなり、小さくなっていった。
僕はまるで、星空のようだ、と思った。
僕「な」
一言返すと、外の景色に集中した。
友人「……クリスマスの奇跡って、信じるか?」
不意に彼が、聞いてくる。
場所に照らされてロマンチックに成り果てたかと心配する僕は少し考えてから、「信じてる」と返した。
次第にロープウェイは急勾配になり、山頂へと到着した。僕は降りて、函館山の空気を肺一杯に吸い込む。
冷たい空気は肺を凍らせ、喉にチクチクとした触感を残した。
いける。こんなに寒ければ、いける。
僕はそう確信して、山頂展望台へと向かった。
いままで、いろんなことがあった。
「あったか~い」の大躍進をみた福島。
「あったか~い」を信じて、祈った秋田。
「あったか~い」の別れを惜しんだ青森。
……そして、姿を消した北海道。
思い出が函館山から見る夜景のように、キラキラと輝いていた。
これも全て、今日のために。
きっと、「あったか~い」は函館山で大躍進をしているに違いない。
僕たちは決意を固めると、函館山山頂にあった自販機へと向かった。

「「あったか~い!!!」」
僕たちは声をそろえると、自販機の元へ駆け寄った。
「『あったか~い』はやっぱり生きていたんだ!」
「『あったか~い』様、ありがたやありがたや……」
「あったか~い」は、函館山の山頂でまごうことなく生きていた。それも三段目ではなく、一番上の一段目に拠点を移して、姿そのままに生きていたのだった。
あったか〜い率こそ約33%と少ないが、ラインナップもお茶にコーヒー、紅茶にココアと”恋人の聖地”を名乗る函館山に申し分ない種類を誇っている。
これこそ、クリスマスの奇跡だと感じた。
ホーム・アローンでも鳩に餌をやるおばちゃんが言っていたが、やはりクリスマスには奇跡は起こる物なのだ。
考察するに、友人は「ここまで雪が降ってつめた〜いが全部埋まるから一番上なんじゃね!?」と言っていた。
「それではお金が入れられないから結局買えないだろ」というツッコミはさておき、いかにも効果音ラボの「trumpet1」が鳴っていそうな話の内容になんだか微笑ましくなって、僕は思わず笑ってしまった。
……彼がいつかショート動画でバズって登録者100万人を迎えるその日まで、僕は彼のYouTube活動を応援していこう。
そう思えるほどに友人のノリは最後までちょっとだけ、底辺YouTuberだった。
僕たちは記念であったか~い飲料を購入すると、凍りそうな手で握りしめた。
熱すぎるほどの「あったか~い」は段々と冬空の元、温くなっていく。
きっと僕たちはこの冬のことを忘れないだろう。記憶が色あせても、いつでも「あったか~い」を見れば思い出せる。
だっていつも身近に「あったか~い」はいるのだから。
結論:北に行っても「あったか~い」率は変わらないどころか逆に減っていく。

追記:2026年夏のあったか~い北海道(函館駅)
今年の夏も、友人と北海道へ旅行に行ってきたので自販機の写真を撮ってみた。

3年前の冬、感動をくれた函館の自販機も今やすべてが「つめた~い」に占領されている。
友人「『あったか~い様』は、またいつか戻ってくるさ」
僕「今だけはこれが正解だけどな」
今年も30度を超え、海水浴場に行くよりもエアコンの効いた部屋で引きこもるのが当たり前になった夏。
またいつか、「あったか~い」が見れるその時まで、静かに冷たい飲み物を買って僕たちは2人、勢いよく飲み干したのであった。
完

